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太田絵理さん 版画専攻領域

“女性性をテーマに置き、 世間が求める女の子像について、 社会に対する違和感や思いを 作品を通じて伝えたい”

博士前期課程で版画を学んでいる太田絵理さんは、卒業制作の作品『つよさとしがらみ3』で、「平成27年度 女子美術大学 卒業制作賞」及び「平成27年度 東京理科大学 マドンナ賞」を受賞されました。その他にも同作は町田市立国際版画美術館で開催された「第40回全国大学版画展」に出品し町田市立国際版画美術館収蔵賞を受賞という輝かしい評価を得られました。  高校時代、絵を描くことが大好きだけど、コンプレックスでいっぱいだった女の子が、女子美術大学でどのように成長し、花開いていったのか、お話をうかがいました。

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子供のころから絵を描くことが大好きで、得意だった太田さんは、美術科のある高校に進学しましたが、自分は普通科で学んでいました。美術を学ぶ同級生の姿を傍らで見ている中で、「やっぱり自分は美術が好きなんだ!」と思い、美術大学への進学を決めました。 2年生から、住んでいた宇都宮市のKILALA美術学院という予備校に通いながら、受験の準備に取り組みます。目指すは油絵の世界。入試のための絵を一生懸命描いていました。 女子美術大学への進学を決めた時には、希望とともにまだ自分に自信をもつことができない内気な女の子だったそうです。 「入学して最初の課題は、《公園の取材から》というものでした。4月から5月にかけて1枚の作品を仕上げました。1年生全員の初めての講評会でしたが、『結局何が描きたいのかわからない』という厳しい言葉を言われ、何を表現したいのか自分の中でもわからなくなってしまいました。受験勉強をしながらイメージしていた油絵というものと、自分の描きたいものが別だったように思いました」

【清水美三子先生からのコメント】
「栃木県宇都宮市の予備校の学院長の先生のお話では、太田さんの学年はとても優秀な仲間がいて、みんなで切磋琢磨していたそうです。その中で太田さんはおとなしい印象でしたが、とても頑張っていたと伺いました」

 

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女子美に入学して最初の油絵作品を描いてみて、自分で油絵とはこういうものと思い込んでいる形式から脱出しなければ次へ進めないと思った太田さんは、自分の苦手としていたことを克服しなければいけないと考えました。彼女は、「ものを見て、ものを大切にしよう」と思い、女性ヌードのデッサンに挑戦したのです。

「受験勉強の中で、私は〈かたちをとること〉が苦手で、どちらかと言えば、発想で勝負していたタイプだったと思います。でも、苦手だからそのままにしていたら、前に進めないと気付いたのです。ものをしっかり見て、ものを大切にすることをちゃんとやらなければいけないと思いました。女性ヌードの次に、男性ヌードを描いてみて、大学で学ぶデッサンは、テクニックを学ぶ受験のためのデッサンとは違い、自分が対象とじっくり向き合うための時間になったと思います」

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その一方で、大学で何を表現すればいいのか、ますますわからなくなっていたという太田さんですが、初めて版画と出会いました。「美術共通実技」といういろいろな専攻の学生が受講できる版画の集中授業があり、油絵以外のものも学んでみようと思い選択したのです。

「最初は銅版画だったのですが、一番驚いたのは、『自由なイメージで作品を作っていいよ』と言われたことです。油絵を描く時は自分の固定観念でがんじがらめになっていたのですが、版画はいかに自由につくるかということを念頭において取り組むことができました。そうなるとアイデアがどんどん出てきて、構成を考えることも楽しかったです。油絵は、描きながら考えて、重ねて描いていくので、ゴールを決めることが難しいのですが、版画は一度線を決めたら描き直しはできないので、潔さがある表現方法だと感じました。その分準備の段階が重要で、私は下絵をきっちり描いてから進めています」

【清水美三子先生からのコメント】
「彼女の版画作品をみて、驚いたことをよく覚えています。仕事がとても丁寧で、画面の端から端まできっちりと密度がある仕上がりになっている。そして単に描き込んであるだけでなく、構成がしっかりと練られていました」

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予備校で絵を学んでいた時に志した油絵の世界は、自分が好きなものを描くというよりは、自分が苦手なものでも自分の幅を広げるために挑戦しよう、という考え方で取り組んでいたと言います。でも版画の作品をつくってみて、講評会のときに、自分が好きなものを仲間たちや先生から「いいね」と評価してもらえたことが、太田さんにとってとても嬉しく、「自由に好きなことをやっていいんだ」と気づくことができたのです。大学2年生になり、太田さんは版画コースに進みました。

「女子美の版画コースでは、銅版画、リトグラフ、木版画、シルクスクリーンという基礎的な4版種に触れ、自分にあった表現方法を見つけることができます。最終的に私は色が豊富に使えるリトグラフを選びました。版画の好きなところは、まず落ち着いてできるという点です。計画性がないとできないのですが、そのプロセスの中で思考を整理することができるのです。2年生の1年間を通じて、《女の子》というモチーフに興味がでてきたことも後の作品にとって貴重な発見でした」

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太田さんにとって、自分自身と向き合うことも大学生活の中でとても重要なことだったといいます。世間が求める《女の子像》と自分とのギャップにずっとコンプレックスを抱いていた彼女にとって、女子美というオープンな場の中にいることで、女の子モチーフや自分の好きなものを思いきって表現できることに気づいた時に、新たな道が拓けたのです。今までの自分を知っている人が回りにいない環境に入って、自分で自分をプロデュースできる自由さが女子美にはあるのです。

「3年生の版画表現演習Ⅱの授業で『考える授業』というものがありました。作品を見て、どんどん意見を出し合い、ディスカッションをするのです。他の人ってどういうことを考えているのだろう、ということを観察することができました。今までの取り繕っている自分を肯定しつつ、否定しつつ、自分のテーマがだんだん決まっていったと思います。私は、女性性をテーマに置き、世間が求める女の子像について、社会に対する違和感や思いを作品を通じて伝えたい。そして、そういうものと自分がかけはなれているけれど、作品の中では女の子っぽくありたい、と思っています」

【清水美三子先生からのコメント】
「今の学生は、人のことにあまり関心がないと思います。でも、人と会話をすることで自分の視野が広がるということを実感してほしいと思い、『考える授業』を行っています。他の学生の意見を聞くことによって、改めて自分ってなんだろうって客観的に考える機会が得られると思っています。そして回を重ねるごとに、みんなが自分の考えを伝え合うようになり、互いのよさや自分のよさに気づき、コミュニケーション能力が高まっていくのです。
最初はみんな自分のことだけ考えて生きている。でも互いに仲良くなって、他者に興味をもって、他の人が自分とは違うストーリーを持っていることを知り、みんなで高め合うことができます。

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4年生になって、太田さんは引き続き大学院で学ぶことを決心しました。他大学への進学も考えましたが、自分の女性性というテーマを大切にしてくれる、この女子美という場で制作をしたいと思ったそうです。版画コースの工房は、いろんな年齢の人がいて、上級生と下級生が互いに刺激をしあいながら一緒に高め合う空間だといいます。そんな中で、大学で学んだことの集大成となる卒業制作がスタートしました。

「就職活動を始めた同級生も多くいて、彼女たちのヒールの靴を目にしながら、社会と女性のことをあらためて考えました。そんな中で《雛祭り》という文化のことを調べていくにつれ、女性を応援する文化というポジティブな一面がある一方で、女性に対する固定概念をつくりあげるというネガティブな面も持つのではないかと感じたのです。そこで、社会の中での女性のしがらみを表現するということを考え、つるし雛に髪の毛が絡みついている作品と女性の下着に髪の毛が絡みついている作品の構想が生まれました。作品が賞を頂き評価された時に、自分自身ではあまり実感がわかなかったのですが、一緒になって喜んでくださる方がいて、自分が一生懸命やってきたことが人に伝わることの幸せを感じました。その時、私は表現者でありたいと心から思ったのです。自分がコンプレックスと思ってきた女性性を追求していき、その作品を見た人に共感してもらえることをめざして作品をつくっていきます」

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太田絵里さんプロフィール

1994年

栃木県生まれ

2016年

女子美術大学 芸術学部美術学科洋画専攻版画コース卒業

現在 同大学院美術研究科博士前期課程版画研究領域1

2014年

第82回版画展(東京都美術館)

2015年

第83回版画展(東京都美術館)

第40回全国大学版画展 町田市立国際版画美術館収蔵賞(町田市立国際版画美術館)

2016年

平成27年度 女子美術大学 卒業制作賞

平成27年度 東京理科大学 マドンナ賞